漢方治療入門講座

滋陰剤について

滋陰剤について
麦門冬配合処方を中心に
麦門冬の配された滋陰剤を投与する若い人が爆発的に増えています。
近年、ドライアイ、ドライマウス、かさかさ肌という言葉を良く耳にしますが、漢方医学の立場では陰虚、津液不足に起因することが多いと思います。
本来、人間は自然の一部でありますので日の出とともに起きて動き、日が沈むと共に休息をとるのが生体リズムに合うわけですが、現代においては夜遅くまで起きていて朝も遅い、人間という動物にとって極めて不自然な生活を送っています。
土を踏んで生きる、自然とふれ合うことも少なくなり、食べ物や水や空気も汚染された中で生活しています。
それに加え、多種多様の強力なストレスに曝され続けています。
ですから私たちは衣食住が満たされ、平均寿命も飛躍的な長寿となり、一昔前と比較すると一見、夢のような時代に生きているわけですが、生物としてみると極めて不自然な状況の中で生きざるを得ない状況にあり、今日、例えば若い女性で妊娠もしていないのに長い間無月経であるとか、不妊症で悩む人が増えているのが示すように、現代人は生物としてみると想像を超えてどんどん虚弱化してきていると思われます。
ドライアイ、ドライマウス、かさかさ肌が増えているのもその一端の現象であると思います。現代においては陰虚、津液不足に陥っているひとが多く、中年以降ばかりでなく若い人にも多くみうけます。また、近年、地球環境は激変し、日の光は肌を刺すように強くなりました。私たちは現在、電子レンジの中に入れられているように、身体の中から熱せられる状況となっていて、身体が干からび、津液不足、陰虚に拍車をかけています。
津液不足に対する代表的な生薬は麦門冬です。我がクリニックでは年々、麦門冬配合の漢方薬を使用する機会が多くなりました。
臨床的には
津液不足
生命活動の維持に必要な全ての水液「津液」が不足
口の渇き、唇や口、のどの乾燥、眼の乾燥、皮膚のかさつき、ころころした便、重症では脱水状態  「身体の弱りがあるところにおきる」
麦門冬の配された麦門冬湯や清暑益気湯などを投与
陰虚
津液不足や血虚に虚熱症状が加わった状態、陰虚火旺
上記の津液不足症状に加えて手足や顔のほてり、のぼせ、めまい、寝汗、微熱、尿が濃い黄色、便がかたい、重症では痩せてくる。
地黄や芍薬の配され、麦門冬などの滋陰生津剤が配合された処方を投与
六味丸、味麦六味丸、杞菊地黄丸、知柏六味丸
炙甘草湯、滋陰至宝湯、滋陰降火湯など。
注意
血虚や気血両虚の著しいときに皮膚のかさつき、口の乾燥、眼の乾燥感がきます。陰虚、津液不足と鑑別して漢薬を選定する必要があります。
例)人参養栄湯証―シェーグレン症候群などで脾虚、皮膚の黄色味、痩せ、神経疲労、口や目の乾燥を訴えるひとがある。
麦門冬
甘・微寒・帰経(心・肺・胃経)
潤燥生津、化痰止咳、燥熱を治す。
臨床において上胸骨部(肺を反映する部分)に熱を触知することと、喉の乾燥、喉に痰がへばりつく、喉に違和感、声がれなどの自覚症状を目標に用いる。
麦門冬の配された漢方薬
我がクリニックでは麦門冬の配された以下の滋陰剤を広い年齢層によく使用しています。
麦門冬湯(麦門冬の配された補気剤)
麦門冬・粳米・甘草・人参・大棗・半夏
一般的には咳嗽、気管支炎、喘息、肺炎に用いますが、咳嗽がなくても老人で夏ばてなどで食べれなくて痩せてしまったひと「脱水を起こすようなひと」や不眠にも適応があります。
一般的には老人の長引く咳などで喉の乾燥感、刺激感があり、咳こむと顔を赤くして連続咳き込み、痰が少なくて粘稠で切れにくいひとに使用する。
炙甘草湯(麦門冬の配された気血両補剤)
麦門冬・麻子仁・阿膠・炙甘草.生姜・・人参・大棗・桂皮・地黄
過労で息切れ、心悸亢進、脈欠滞するひとで喉の乾燥感の強いひとの咳嗽、気管支炎、不整脈、高血圧などに広く使用。
本来は丈夫なのに異常に頑張りすぎて精魂つきてしまうタイプに良く使用します。
清暑益気湯
麦門冬・甘草・人参・朮・陳皮・黄耆・当帰・五味子・黄柏
夏ばての薬として有名。
補中益気湯に近い薬であるが黄柏が配されており、胃や腎に 籠もった熱を取る作用があり、夏ばての程度がひどく濃い色の尿や足や手の火照りが強く、足のだるさも強い、補中益気湯証より夏ばての程度の酷いひとに用いると良い。
清心蓮子飲
麦門冬・甘草・人参・茯苓・黄耆・蓮肉・黄耆・車前子・地骨皮
上部の心熱が盛んになって下焦の腎の働きが弱くなってバランスを失い、下焦の泌尿器や生殖器に異常をきたしたひと、膀胱神経症や帯下ばかりでなく、高血圧、糖尿病など中年以降の諸疾患によく使用。
温経湯
麦門冬・阿膠・甘草・人参・生姜・呉茱萸・半夏・当帰・芍薬・川芎・桂皮・牡丹皮
当帰四逆加呉茱萸生姜湯合当帰芍薬散合桂枝茯苓丸の意味を含んだ処方で今日における、いわゆる婦人薬の第一の薬と考える。(虚弱となった現代人の桂枝茯苓丸と考えると使いやすい)
のぼせ、ほてり、顔の熱さを強く訴えるひとで足首が冷えており、口唇の乾燥や口の渇きがあり、肺の熱燥、下腹のお血所見より温経湯証でないかと考えると良い。
口唇乾燥、手掌煩熱、上熱下寒、お血を目標に用いる。
釣藤散 石膏.;釣藤・橘皮・半夏・麦門冬・茯苓.人参・菊花・防風.甘草・乾生姜
肝厥頭暈「肝に邪気が盛んで厥のために起こった頭暈と神経症を治し、頭目を清める」とあり、殊に脳動脈
硬化に因る早朝覚醒時の頭痛に効果があると言われている。方剤に石膏が配されており、胃腸の冷えた人には使用を控える必要がある。
竹茹温胆湯
麦門冬・人参・甘草・生姜・茯苓・陳皮・枳実・半夏・桔梗・竹茹・香附子・黄連・柴胡
風邪が長引き咳き込んで、痰が粘稠で色が濃く痰が出にくく、胸が痛み夜も寝れず、胸脇苦満のある人に用いる。
辛夷清肺湯
麦門冬・百合・石膏・辛夷・枇把葉・黄ごん・山梔子・知母・升麻
咳止め、痰きりの生薬が沢山配合されている。
滋陰至宝湯
麦門冬・地骨皮・甘草・白朮・茯苓・陳皮・貝母 ・知母・薄荷・柴胡・当帰・芍薬・香附子
かつて肺結核で喀血しやすいひとに用いた処方。気管支拡張症や慢性気管支炎の喀血しやすい人に用いると効果がある。
滋陰降火湯
麦門冬・天門冬・甘草・陳皮・朮・知母・当帰・芍薬・地黄・黄柏
滋陰至宝湯と同じように喀血しやすい人の肺結核に良く用いられた処方。
黄柏が配されており、滋陰至宝湯証より胃が丈夫な人に使用する。
真武湯生脈散
麦門冬・人参・五味子・附子・芍薬・生姜・朮・茯苓
心不全の人に用いると効果がある。 潜在性心不全に陥った人の花粉症や糖尿病など諸疾患にも応用。
百合固金湯
麦門冬・百合・玄参・甘草・桔梗・貝母・当帰・芍薬・地黄
咳が長引き、咽頭痛と声がれが続く慢性肺疾患に使用すると効果がある。
 
 

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